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はじめての家づくり 10 | 工務店から考える家づくり

前回は、ハウスメーカーについてそのシステムとお金についてお話ししました。

今回は「工務店」についてです。



地域密着が工務店

昔、電話帳がえらく厚かった時代。

職業別電話帳の工務店のページは随分とありました。

大小数多工務店はあり、地域の普請を支えてきました。

なので「工務店」といえば、親の代からの付合いがあるところがあったりしたもの。

なんかの折にふらっと工務店のオヤジが寄ってくれたりしました。

それにお互い顔が見えていますから、

アフターメンテナンスも連絡すればすぐに来てくれます。

なんでも親身になって相談に乗ってくれる頼れる存在でした。


伝統的とは言わないですが、工務店とは地場産業的な建設業者です。

かつては

大工、左官、板金、電気、水道、塗装など職人のマネージメントから

家づくりに関わるすべてを仕切っていました。

もっとも最近では大工など職人をかかえることはなく、

プロジェクト契約だったりすることが多いようです。


工務店はそもそも地元意識があるので、その地区の気候、風土もよく理解しています。

この地区では一日の間でどう風が吹くかとか、夏と冬でどう気候が違うのか、など。

住まいづくりで微気候にマッチした工夫をしてくれるものです。

また、地元の金融機関では、地元の工務店を通すと、

融資がスムーズになったという話も聞きます。

ファイナンシャルプランナーなどを社内において、

積極的にお金の話の相談に乗ってくれるところも増えているようです。


そして、地元ですので近所で建設された実例を見ることができるというメリットもあります。

最近ではオープンハウス情報を頻繁に発信する工務店が増えました。

webで「地域名」と「工務店」に「見学会」と検索すると結構見つかります。

施工技術やデザインの方向性、コミュニケーション能力などの確認の参考になると思います。



ハウスメーカーより自由

数寄屋を建てる工務店も、ちょっとした普請をする工務店も同じ工務店。

使う材料のグレードや技術力など、理由は様々ですが、

工務店の工事費にはばらつきがあります。

それでも一般的には、ハウスメーカーの住宅よりは安価です。

しかもハウスメーカーのような仕様制限もないですし、

使えない住宅設備(ユニットバスやキッチン、床暖房)もありません。

勿論、施主支給にも対応してくれます。

施主支給とは、お施主(建主)さんが自分で手配した物(照明やエアコン、タオル掛けや洗面台など自分で買ってきたもの)を工務店に渡し取り付けてもらうことです。取り付け費用は発生しますが、下地補強や電気配線の確認などは対応してくれます。

一方でハウスメーカーでは、責任の所在が曖昧になる、と断られることが多いようです。


愛のある工務店

工務店には二つのタイプがあります。

一つは自社に現場監督などの施工チームだけでなく

設計能力のある人材を抱えて設計・施工(監理を含む)を一括で請け負う工務店。

もう一つは設計事務所などが設計したプロジェクトを、

設計事務所の監理のもとで施工する工務店です。


工務店は先に述べたように、それぞれ得手不得手があります。

木造の簡単なものをスピーディーに施工するのを得意にするところや、

丁寧に時間をかけながら図面に忠実に施工するところがありますし、

そもそもフランチャイズの工法しかやれないところもあります。

2×4(ツーバイフォー)しかできず、鉋(かんな)さえ使えない工務店もあります。

すべての工務店が万能ではないという理解が必要です。

オープンハウスを頻繁に行う工務店や、不動産に強い工務店もあります。

独自に工法やシステムを開発して販売するハウスメーカーのようなところもありますし、

自社で土地を購入し建売や売り建て住宅の販売を中心に展開しているところもあります。


きちんとした工務店は、自社の収まり、ディテールがあります。

どう作るとうまくできるのかの工夫のことです。

これが大切です。

木材の材質や部位、サイズや向き、加工法や止め方など、

同じ仕上がりに見えても時間が経ってみると思慮深さと材料のグレードで、耐久力や経年の美しさに差が出ます。

同じ部位を作るのでも、作りやすさ、メンテナンスの良さ、耐久性などを考慮すると色々な考え方をすることができます。

家全体の精密さやデザイン性に合わせて判断することもありでしょうし、

耐久性を重視して作ることもあります(勿論作りやすさが重要なこともあります)。

全体がシンプルなつくりなのに、玄関だけ宮殿のようになっているのも変でしょ?

バランスも大切です。

そうしたことを常に考え、積み重ねていくことで

その工務店なりの考え方・作り方、自社の収まり、ディテールができてきます。

そういうことを大切にできる工務店で家づくりができると幸せです。

長く使い、愛するにふさわしい家づくりを一緒にしてくれるからです。

愛のある家づくりになります。



ポイントは監理体制?

工務店の設計・施工による家づくりで、ウィークポイントになるのはなんでしょう。

きちんとコミュニケーションが取れる工務店であることがまずは前提です。

それでも、工務店の業務の中心は建築物の施工です。

ですから発想の多くが「施工」を中心に据えることになります。

設計も、現場監理も、施工の視点が強くなります。

本来、私たち設計事務所のいう「設計」というのは

「作りやすさ」より、

「使いやすさ」や「美しさ」が優先されます。


現場監理もそうです。

私たち設計事務所のいう「現場監理」というのは

現場の施工期間の短縮よりも、設計図に書かれた通り作られているか、

あるいはそれを超えて良いものになっているかが優先されます。

慌てて中途半端なものにすると、後々大きな問題になります。

設計事務所は、施工はしない設計・監理だけする立場で建主さんの方だけを向いているのです。


けれども、設計する人と施工する人が利害関係の同じ社内の人間で、

しかもそれをチェックする監理者が利害関係の同じ社内の人間の場合、

チャック機能が大切になります。

利害が同じ者のチェック体制を機能し続けるのは大変なことです。

しかも、間違いは悪意がなくとも起こります。

問題が起きるのを待つのではなく、まず、問題が起きないようにすべきです。

ですから、施工レベル低下の抑止力として第三者的な視点が必要なんです。


監理業務とは、

設計図通りに施工が行われているか、

あるいは、それと同等の状況になっているかを工程の間中確認し続けることです。

そのため私たちは、

建主と工務店の工事契約が済むと、工務店には現場監督を決めてもらい、事前に図面の読み合わせをします。

図面の読み合わせでは、

図面を見ればわかる当然なことから始まり、理解が難しいところや重要なところなど注意喚起を行います。

実施設計図以外にどのような詳細図が必要になるかも打ち合わせます。

ここでは、設計の立場だけでなく、施工の立場でのコメントも出てきます。

これを取り入れ、施工チームの仕事がスムーズになるように微調整するのも忘れません。

そして多くの場合、週一で定例の現場監理に入ります。


建主さんの利益を優先する立場の監理者を立てる方が、より良い住まいづくりとなるのです。

それができるのは、

設計と監理を専業とする建築設計事務所と、施工を専業とする工務店の組合せでの家づくりです。


2021/05/18 佐藤 勤 記


この項了

次回、5月21日(金)に更新予定です。



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